焼きものイノベーション 村上雄一さんを訪ねて Vol.2

(2023.09.06)
お茶の時間をもっと美味しく、愉しく

骨董から現代作家まで、村上さんのお気に入りの器


取材を終えて、ご近所のお蕎麦屋さんで大変美味しいお蕎麦を頂いた後、村上さんのご自宅で中国茶を頂けることになった。お茶を準備してくださる間にも、村上さんは自分の大切な器のコレクションの一部を惜しげもなく見せてくださった。古染付の芙蓉手の皿、新宮州三さんの漆の椀、自分の若手時代に作った作品まで、それぞれの器の出会い、そこから生まれた物語を嬉しそうに語ってくださった。そのコレクションを拝見して私は初めて、村上さんの目指しているところをさらに理解できた気がした。

日頃から中国茶や紅茶を楽しまれる村上さん


村上さんは姿勢をまっすぐに座り直すと、しゅんしゅんと沸いたお湯で茶壺や茶杯を温め始めた。茶葉を茶壺に入れて、再びお湯を注ぐと、白い湯気と共にお茶の香りが部屋に満ちていく。主人と客人それぞれが、穏やかに茶の姿を見つめている。
以前から、村上さんの白磁シリーズである茶杯や茶壺、茶海、煮水器を使わせて頂いている。指先にすっと馴染む形態に加えて、茶葉そのものの美しさや一煎目、二煎目、三煎目と繊細に色味を変えていく茶の持つ色味を正確に映し出す柔らかな白、さらに味わいを濁らせない磁器の質、骨董の茶器や道具との相性の良さなど、使い手の気持ちを汲んだ茶器は、手にとるたびに満ち足りた感情をもたらしてくれる。しかも、茶壺には「まんじゅう」や「だるま」など色々な形があり、それぞれに日本的な呼び名が付けられている。まるで村上さんは、茶を通して日本や中国、台湾といった国々を緩やかに繋いでいるようだ。
「もう一杯飲まれますか?」というお言葉に甘えて結局4煎ほど頂いただろうか。「はい、いただきます。」と伝えながら何時間でも滞在できそうな自分の図々しさに辟易とするが、村上さんご自身が本当に茶を愉しんでいらっしゃるのが、せめてもの救いだと感じる。

白磁の茶杯に透けたような金色の茶が映える

同じ年齢でありながらクリエイターとしても茶を嗜む人としても先陣を切って走り続ける村上さんから、私は大いに刺激を貰い続けている。陶芸という世界の第一線でものづくりをしながら、「アート」や「ビジネス」という領域から、はたまた「海外」という視点から、外部の領域から陶芸を見つめられる人はそう多くないだろう。彼がさまざまな視点でものづくりしていても、作り手としての方向性にブレがないのは、陶磁器への純粋な憧憬、茶への好奇心といった、さまざまな芸術の中で揺れ動く美しさの正体を探す少年のような心を持ち続けているからだろう。来年冬の展示会をご一緒できるのが、心から楽しみである。
佐賀からはるばる同行して下さったカメラマン水田秀樹さんに感謝申し上げたい。